
フランス、EU、アメリカ、そして日本。ペットショップの未来はどこへ向かうのか
2024年1月1日、フランスのペットショップから犬と猫が姿を消した。2021年に成立した動物虐待防止法(loi contre la maltraitance animale)により、店頭での犬猫販売が全面的に禁止されたのである。年間約10万頭のペットが遺棄されるという深刻な社会問題に対し、フランスは『衝動買いの入口を断つ』という明確な政策選択をした。
この動きはフランスだけにとどまらない。2025年6月、欧州議会はEU全域でのペットショップにおける犬猫販売禁止を含む規制案を承認した。年間推定13億ユーロ(約2,100億円)規模のEUペット取引市場に、根本的な構造転換を迫る歴史的決定である。一方、日本では依然として約16,000の犬猫等販売業者が営業を続けている。この差はどこから生まれたのか。

ペットショップでの生体販売規制は、2000年代のオーストリアを皮切りに、欧州を中心に急速に広がった。オーストリアは2004年にペットショップでの犬猫販売を禁止し、ベルギーも2008年に同様の措置を講じた。2020年にはイングランドで『Lucy's Law』が施行され、第三者を介した子犬・子猫の販売が禁止された。この法律は、ウェールズのパピーミルで劣悪な環境に置かれていたキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル『ルーシー』の名前に由来する。
アメリカでも州レベルでの規制が進んでいる。カリフォルニア州は2019年に全米初のペットショップ生体販売規制を導入し、保護施設経由の犬猫のみ店頭に置くことを義務付けた。2024年12月にはニューヨーク州でも犬・猫・ウサギのペットショップ販売が禁止された。現在、全米で約400以上の自治体が何らかの生体販売規制を設けている。
2025年6月、欧州議会は犬猫の福祉とトレーサビリティに関する最低基準を定める規制案を承認した。この規制案の柱は3つある。第一に、EU全域でのペットショップにおける犬猫販売の禁止。第二に、マイクロチップによる義務的個体識別と各国データベースへの登録。第三に、近親交配(親子、祖父母-孫、兄弟姉妹間)の禁止である。

欧州市民の74%が、自国におけるペット(犬猫)の福祉保護は現状よりも強化されるべきだと考えている。
— Eurobarometer 2023
背景には、EU域内での違法なペット取引の深刻化がある。欧州委員会の提案書によれば、健康書類の偽造や、規制の緩い『輸送』を装った販売が横行している。年間13億ユーロの市場規模は、一部の業者にとって不正な商慣行に手を染める十分な動機となっている。規制案は現在、EU理事会との最終交渉段階にある。
フランスの事例は、規制の効果と限界の両方を示している。2024年の販売禁止施行後、一部のペットショップは法の抜け穴を利用し、店舗を『ブリーダーの展示場』として再定義するなどの回避行動が報告されている。また、オンラインでの個人間売買が増加し、トレーサビリティの確保が新たな課題となっている。
さらに、フランスでは年間約10万頭のペットが遺棄されるという問題が依然として解決されていない。特にバカンスシーズンの遺棄は深刻で、コロナ禍での在宅勤務中にペットを飼い始めた層が、出勤再開後に飼育を放棄するケースが急増した。販売規制は衝動買いの抑制には効果的だが、飼育放棄の根本原因——飼い主教育の不足——には別のアプローチが必要である。
日本の犬猫等販売業者数(2024年)
日本では2024年4月時点で16,886の犬猫等販売業者(うち繁殖業者13,362)が登録されている。2019年の改正動物愛護管理法では、繁殖回数の制限(犬は生涯6回まで)、56日齢規制(生後56日を経過しない犬猫の販売禁止)、マイクロチップ装着の義務化などが盛り込まれたが、ペットショップでの生体販売そのものを禁止する議論には至っていない。
一方で、変化の兆しもある。大手ペットショップチェーンの一部は自主的に生体販売を縮小し、保護犬猫の譲渡会スペースを設ける動きが広がっている。イオンペットは2020年から一部店舗で保護犬猫の譲渡事業を開始し、ペットのコジマも譲渡会の定期開催を行っている。消費者の意識変化が、企業の行動を変え始めている。
ペットショップ規制の根底にあるのは、パピーミル(大量繁殖施設)の問題である。利益最大化のために狭いケージで過密飼育し、メス犬に過剰な繁殖を強いる施設は、世界中で動物福祉上の深刻な問題を引き起こしている。近親交配による遺伝性疾患の増加、社会化不足による行動問題、売れ残り個体の遺棄や殺処分——これらはすべてパピーミルの構造的帰結である。
日本でも2025年に環境省が実施した繁殖業者への立入検査で、飼養管理基準に違反する業者が全体の約12%に上ることが明らかになった。しかし、行政処分に至るケースは極めて少なく、監視体制の実効性に疑問が呈されている。殺処分の現在地で見たように、繁殖と販売の上流を規制しなければ、下流の殺処分問題は解決しない。
日本がただちにペットショップでの生体販売を全面禁止することは、現実的には難しい。16,000を超える事業者の雇用と生計がかかっているからだ。しかし、段階的な移行は可能である。第一段階として、ペットショップに保護犬猫の譲渡スペース設置を義務付ける。第二段階として、ブリーダーからの直接購入を原則とし、ペットショップは仲介のみに限定する。第三段階として、一定の移行期間を設けた上で店頭での生体販売を禁止する。
同時に、マイクロチップ制度の実効性強化、飼い主教育の義務化、繁殖業者への監視体制の拡充を並行して進める必要がある。EU議会が示したように、販売規制・個体識別・繁殖管理の三位一体でなければ、動物福祉の実質的な改善は望めない。世界のデータダッシュボードが示す各国の取り組みを参考に、日本独自のロードマップを描く時が来ている。

記事監修
獣医師 / 株式会社Buddies CEO
東京大学農学部獣医学専修卒。臨床獣医師・ペット栄養学講師。タイ・ベトナムでの獣医ボランティア、ウガンダ国立遺伝資源研究所でのリサーチフェローを経て、保護犬の犬材派遣会社・株式会社Buddiesを設立。女性起業チャレンジ大賞グランプリ受賞。NHK『おはよう日本』出演。
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